☆信託の設定と遺留分侵害の有無
信託の設定によって、遺留分侵害額請求を一律に免れるという効果が生じるものではないことには、ほぼ一致がある。生前信託に関しては、相続法改正前に、生命保険契約が遺留分減殺請求の対象とならないとした最判平成14年11月5日と同様に、遺留分侵害の問題は生じないと解する余地があることを説く見解もあるが、結論として、遺留分制度の規律が及ぶとする(道垣内:信託法第2版66頁)。
例えば、遺言によって、被相続人=遺言者=委託者の全財産を信託財産とする信託が設定され、相続人でない第三者が受益権全部を取得した場合、相続人の遺留分が全面的に侵害されることになる。
また、全財産を信託財産として設定された遺言代用信託において、第一受益者である委託者の死亡により、共同相続人の1人が第二受益者として受益権全部を取得した場合、他の相続人の遺留分が全面的に侵害されることになる。
すなわち、生前の他益信託の設定は受益者に対する「贈与」、遺言による信託の設定は「遺贈」とみて、遺留分減殺請求の対象となり、遺言代用信託は、死因贈与に類する扱いとして、遺留分減殺請求の対象となる。
減殺の順番に関し、死因贈与は遺贈の後、生前贈与の前に対象になるとする東京高判H12.3.8があり、遺言代用信託も同様に考えられる。
本稿では、専ら遺言代用信託(=委託者が第一受益者となる後継ぎ遺贈型受益者連続信託)を前提に遺留分を考察することとする。
遺言代用信託は、委託者が生前に受託者と信託を設定する合意をすることで、委託者の死後の財産の承継方法を定めるものであり、死因贈与と似た機能を有する。このため、死因贈与と同様に、民法の遺留分制度の規律に服する(条解信託法471頁)。