• TOP>
  • お知らせ>
  • 受益者連続信託(遺言代用信託)における遺留分の考察その1

受益者連続信託(遺言代用信託)における遺留分の考察その1

  • 2024.08.28
  • コラム

受益者連続信託(遺言代用信託)における遺留分の考察その1

2024.08.28

受益者連続信託(遺言代用信託)とは?

1 後継ぎ遺贈型受益者連続信託

受益者連続信託は、受益者としての地位が次々と変わっていく信託であるが、受益権の取得に条件や期限を定めること、終期を定めることも可能であるから、ある事象が生じると受益者の受益権が失われ、別の者に受益権が発生する信託を設定できる。かかる受益者連続信託の中で、受益者の死亡という事象により、他の者が受益権を取得するのが、後継ぎ遺贈型受益者連続信託である。すなわち、後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、受益者連続信託の中の一類型である。

2 遺言代用信託

遺言代用信託は、委託者の死亡により受益権等を取得する旨の定めのある信託をいい、典型的には、委託者が財産を信託して、委託者生存中は委託者自身を受益者とし、委託者死亡後は委託者の配偶者や子などを受益者とすることによって、自己の死亡後における財産の分配を信託によって実現するものである。

3 両信託の関係

このように見てくると、後継ぎ遺贈型受益者連続信託で、かつ、自益信託すなわち委託者が第一受益者となって開始される信託が、遺言代用信託ということになる。(信託法90条1項1号の文言からすれば、他益信託で開始される遺言代用信託も可能なはずだが、現実にその実例を見たことはない。)。実際に、遺留分が問題となる主要な受益者連続信託は、遺言代用信託(=委託者が第一受益者となる後継ぎ遺贈型受益者連続信託)である。

ところで、委託者の死亡により自益信託が終了し帰属権利者・残余財産受益者が残余財産を取得する信託は、遺言代用信託なのだろうか?自己の死亡後における財産の分配を信託によって実現する機能に着目すれば、死因贈与に類似した遺言代用信託と言ってもよいのかもしれない。しかし、委託者の死亡で終了するのだから、後述の死者による無制限なコントロールが問題になることはない。とすれば、やはり、いわゆる講学上の遺言代用信託とは呼べないのであろう。

ただし、遺留分制度の規律に服する点では、委託者の死亡で終了する自益信託も遺言代用信託(=委託者が第一受益者となる後継ぎ遺贈型受益者連続信託)も同様である。とはいえ、委託者の死亡で終了する自益信託であれば、死亡する委託者からの受益権の付与はないので、後述する信託財産説か受益権説かという対立は生じないと思われる。

4 相続法秩序との関係

後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、例えば甲を第一受益者、甲が死亡したら乙が第二受益者、乙が死亡したら丙を第三受益者とするといったように、もし存続期間の制限がなければ、財産の承継を何代も先まで決めることができる。その結果、死者による無制限なコントロールという相続法秩序との衝突が生じる。また、遺言代用信託は旧法下でも有効なものとされていたが、後継ぎ遺贈型受益者連続信託とともに、相続法秩序との衝突を引き起こすものとして利用の拡大を懸念する意見もあった。

この点。現行信託法は、旧信託法が「公益信託ニ関スル法律」と題名を改め、その大半の条項が廃止されたことに伴い、新法として制定された法律であるが、後継ぎ遺贈と受益者連続型信託は異なるものであり、後継ぎ遺贈が民法上無効だとしても、後継ぎ遺贈型受益者連続信託を含む受益者連続信託の有効性を認めつつ、期間無制限ではなく30年という期間を定めることで財産処分の限界付けをして、相続法秩序との衝突を回避したものと解されている。すなわち、90条で遺言代用信託の有効性を認めつつ、91条で相続法秩序との衝突を回避する工夫をしている。

お知らせ一覧