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受益者連続信託(遺言代用信託)における遺留分の考察その3(信託と遺留分ー改正前の考察)

  • 2024.11.05
  • コラム

受益者連続信託(遺言代用信託)における遺留分の考察その3(信託と遺留分ー改正前の考察)

2024.11.05

☆信託行為説・信託財産説・受託者説VS受益権説・受益者説

Q信託設定のどの部分が遺留分を侵害しているか?については、信託設定を侵害行為とみる信託行為説(信託財産説)と受益者に対する受益権の付与を侵害行為とみる受益権説が対立している。この対立を遺留分算定の基礎となる財産という点からみると、信託財産の価額とする信託財産説(受託者説)と受益権の価額とする受益権説(受益者説)という対立となる。

信託行為説は、委託者=被相続人が、遺言代用信託を設定することにより本来なら相続財産となるはずだった財産の全部又は一部が受託者名義に置き換わっていること、信託財産の所有権が受託者に移転したことを遺留分の侵害とみる。遺留分算定の基礎財産には信託財産の価額を算入する。遺言代用信託では、信託財産の価額が「(被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に)その贈与した財産の価額」(現民法:1043条1項・旧民法:1029条1項)に算入されることになろう。遺留分減殺請求により、信託行為の効力が否定され、その結果、信託財産の移転が否定される。信託行為の一部しか減殺できない場合、信託財産の一部が遺留分権利者に帰属し、その結果、信託財産は、受託者と遺留分権利者との共有となる。受益者は、残された信託財産についての受益権を享受する。信託行為の効力を否定するのだから、遺留分減殺請求の相手方は、受託者である。信託行為説では、信託破壊、すなわち、信託行為の効力が否定されるため信託関係者(信託債権者、受託者、他の受益者)への影響が大きいという問題がある。

対して、受益権説は、受益権の付与を遺留分の侵害とみる。遺留分減殺請求の結果、受益権の帰属が遺留分を侵害する限りにおいて否定され、否定された受益権が遺留分権利者に移転する。信託行為の効力や信託財産の移転に影響はない。受益者の受益権帰属を一部しか減殺できない場合、遺留分侵害の割合に応じて割合的に受益権が遺留分権利者に移転する。その結果、受益権は受益者と遺留分権利者との準共有となる。  遺留分算定の基礎財産には受益権の価額の総額を算入する。遺言代用信託では、受益権の価額の総額が「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」に算入されることになろう。遺留分減殺請求の相手方は、受益権の取得によって遺留分を侵害している受益者である。受益権説に対しては、受益権の経済的価値は遺留分額に満たない、受益権総額が信託財産には及ばず、遺留分権利者が不利益を被る、との指摘がある。

遺言代用信託において遺留分を算定する際の基礎となる「被相続人が相続開始の時において有していた財産」(民法1043条1項)は受益権であることから、受益権説が有力なようである。ただし、受益権の時価評価は極めて困難なものであるため、裁判実務において受益権説を実施できるのか?という疑問もある。しかし、受益権価額の評価は、信託財産の評価と比較すると困難だが、他の権利価額評価と同じく最終的には鑑定人によって評価されるものであるから(現民法:1043条2項・旧民法:1029条2項)、受益権に特有の問題ではない、ともいえる。

なお、東京地裁平成30年9月12日判決は受益権説を採用しているが、遺留分算定の基礎となる財産を信託財産の価額(固定資産評価額)としている点で、信託財産説VS受益権説の議論に照らし不整合であるとの指摘がある。

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